【青年】
「確かに子供の目に映る世界はシンプルなのかもしれません」
「しかし、大人になるにつれ、お前はその程度の人間なのだ、という現実をいやというほど見せつけられ、人生に待ち受けていたはずのあらゆる可能性が不可能性へと反転する。幸福なロマンチシズムの季節は終わり、残酷なリアリズムの時代がやってくるわけです」
「それだけではありません。大人になれば複雑な人間関係に絡まれ、多くの責任をおしつけられる。仕事、家庭、あるいは社会的な役割」
「さぁ、先生お答えください。あなたはこれだけの現実を前にしてもなお、世界はシンプルだとおっしゃるのですか?」

【哲人】
「私の答えは変わりません。世界はシンプルであり、人生もまたシンプルです。」

【青年】
「なぜです?誰の目からみても矛盾に満ちた混沌じゃないですか?」

【哲人】
「それは世界が複雑なのではなく、ひとえにあなたが世界を複雑なものとしているんです」
「あなたが見ている世界は、私がみている世界とは違う。およそ、誰とも共有できない世界でしょう」

【青年】
「どういうことです?先生もわたしも同じ時代、同じものを見てきているじゃないですか?」

【哲人】
「今あなたの目には、世界が複雑怪奇なものに写っている。しかし、あなたが変われば、世界は再びシンプルなものに見えてきます」
「問題は世界がどうであるか?ではなく、あなたがどうであるか?なのです」
「サングラスをかけて世界をみているのかもしれません。そしてあなたにそのサングラスをはずす勇気があるかどうか?なのです」

【青年】
「勇気?」

【哲人】
「ええ、これは勇気の問題です」

【青年】
「確認ですが、先生は人は変われる、とおっしゃるんですね?私が変われば、世界もシンプルな姿を取り戻す」

【哲人】
「もちろん、人は変われます。のみならず、幸福になることもできます。いかなるひとも例外なく。今、この瞬間から」

【青年】
「(笑)大きくでましたね。いますぐ論破してさしあげます」

【哲人】
「あなたの主張は人は変われない、なのですね?でも同時にあなたは変わりたい、と願っている」

【青年】
「もちろんです。もしこの人生をやりなおせるなら、わたしは喜んで先生の前でひざまづきましょう」



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