アドラー思想 嫌われる勇気

02/19

【なぜ「人は変われる」なのか?】
S

先生は『人は変われる』とおっしゃる。のみならず、誰しも幸福になれると。

T

ええ、一人の例外なく。

S

人は誰しも変わりたいと願っているものです。しかし、どうしてみんなが変わりたいと願っているでしょうか?答えは一つ、みんなが変われずにいるからです。人は変わりたくて変われない。

T

あなたはなぜ、そうも頑なに人は変われないと主張されているのです?

S

私の友人にもう何年もこもりきっている男がいます。彼は外に出たい、と願っているし、できることなが仕事ももちたいと思っている。今の自分を変えたい、と思っているわけです。しかし彼は外に出るのが恐ろしい。一歩でも外に出ると、動悸が始まり手足が震える。一種の神経症なのでしょう。変わりたくても変われないのです。

T

あなたは、彼が外に出れなくなった理由はどこにあると思いますか?

S

詳しいことはわかりません。ご両親との関係、あるいは学校でのいじめ等、それらがトラウマになっているのかもしれません。いや、もしかしたら甘やかされて育っているのもあるのかもしれない。まぁ、彼の過去や家庭の事情は測り知ることはできません。

T

いずれにせよ、ご友人の過去にトラウマなり、なんらかの原因になるものがあった。その結果、彼は外に出れなくなった。そうおっしゃるのですね?

S

もちろん。結果の前に原因がある。なんの不思議があります!?

T

では仮に、外に出られなくなった原因が幼い頃んも家庭環境にあったとしましょう。両親から虐待を受けて育ち、愛情を得られないまま成長した。だから他者とかかわるのが怖いし、外に出られないのだ。と。あり得る話ですね。

S

おおいにありうる話です。ひどいトラウマになるでしょう。

T

そしてあなたは『あらゆる結果の前には、原因がある』とおっしゃる。要するに、現在の私(結果)は、過去の出来事(原因)によって規定されているのだ、と?その理解でよろしいですね?

S

もちろん!

T

さてもしもあなたがおっしゃるように、遍く人の現在が過去の出来事によって規定されているのだとすれば、おかしな事になりませんか?だってそうでしょう。両親から虐待を受けて育った人は、全てがご友人と同じ結果、すなわち、引き込もりになっていないと辻褄があわない。過去が現在を規定する。原因が結果を支配する、とはそういうことでしょう。

S

なにをおっしゃりたいのです?

T

過去の原因ばかりに目を向け、原因だけで物事を説明しようとすると、話は自ずと『決定論』に行き着きます。すなわち、我々の現在、そして未来は、全てが過去の出来事によって決定済みであり、動かしようのないものである、と。違いますか?

S

では過去など関係ないと。

T

ええ、それがアドラー心理学の立場です。

S

なるほど。早速対立点が明確になってきましたね。しかしですよ先生。今の話だと友人はなんの理由もなしに外に出られなくなったことになりませんか?なにせ先生は過去の出来事なんて関係ない、とおっしゃるのですから。それは絶対にあり得ない話です。彼が引きこもっている背景にはなにかしらの理由がある。じゃないと説明がつかないでしょ?

T

はい、たしかに説明がつきません。そこでアドラー心理学では過去の『原因』ではなく今の『目的』を考えます。

S

今の目的?

T

ご友人は不安だから外に出られないのではありません。順番は逆で外に出たくないから、不安という感情を作り出している、と考えるのです。

S

は?

T

つまり、ご友人には外にでない、という目的が先にあって、その目的を達成する手段として、不安や恐怖といった感情をこしらえているんです。アドラー心理学ではこれを目的論と呼びます。

S

ご冗談を。不安や恐怖をこしらえた、ですって?じゃ先生、私の友人は仮病を使っているとでも言うのですか?

T

仮病ではありません。ご友人がそこで感じている不安や恐怖は本物です。

場合によっては割れるような頭痛に苦しめられたり、猛烈な腹痛に襲われることもあるでしょう。しかしそれらの症状もまた、外に出ない、という目的を達成するために作り出されたものなのです。

S

あり得ません。そんな議論はオカルトです。

T

違います。これは『原因論』と『目的論』の違いです。あなたのおっしゃることは全てが原因論に基づいています。我々は原因論の住人であり続ける限り一歩も前に進めません。

【トラウマは、存在しない】
S

そこまで強くおっしゃるなら、しっかりと説明していただきましょう。そもそも

『原因論』と『目的論』の違いとはどうゆうことです?

T

(病院での例をあげる)

原因論に立脚する人々は、ただ『あなたが苦しんでいるのは、過去ののココに原因がある』と指摘するだけ、また『だからあなたは苦しくないのだ』と慰めるだけで終わっってしまいます。いわゆる、トラウマの議論などは、原因論の典型です。

S

ちょっと待ってください!つまり先生、あなたはトラウマの存在を否定されるのですか?

T

断固として否定します。

S

なんと!先生は、いやアドラーは心理学の大家なのでしょう?!

T

アドラー心理学では、トラウマを明確に否定します。

アドラーはトラウマを否定する中でこう語っています。

『いかなる経験も、それ自体では成功の原因でも失敗の原因でもない。我々は自分の経験によるショック-トラウマ-に苦しむのではなく、経験の中から目的に叶うものを見つけ出す。自分の経験によって決定されるのではなく、経験に与える意味によって自らを決定するのである』と。

S

目的に叶うものを見つけ出す?

T

その通りです。アドラーが「経験それ自体」ではなく、「経験に与える意味」によって自らを決定する、と語っているところに注目してください。我々は過去の経験に「どのような意味を与えるか」によって、自らの生を決定している。人生とは誰かに与えられるものではなく、自ら選択するものであり、自分がどう生きるかを選ぶのは自分なのです。

S

じゃ、先生は私の友人が好き好んで自室にこもっている、とでも?

自らひきこもることを選んだ、とでも?冗談じゃありません。自分で選んだのではなく、選ばされたのです。今の自分を選択せざるを得なかったのです。

T

違います。仮にご友人が、自分が両親から虐待をうけたから、社会に適合しないと考えているのだとすれば、それは彼の中にこう考えたい目的があるのです。

S

どんな目的です?

T

直近のものとしては、外にでない、という目的があるでしょう。外にでないために、不安や恐怖を作り出している。

S

どうして外に出たくないのですか?問題はそこでしょう!

T

では、あなたが親だった場合を考えてください。もし自分の子供が部屋に引きこもっていたら、あなたはどう思いますか?

S

それはもちろん心配しますよ。どうすれば社会復帰してくれるのか?どうすれば元気を取り戻してくれるのか?そして自分の子育ては間違っていたのか?真剣に思い悩むだろうし、社会復帰に向けて、ありとあらゆる努力を試みるでしょう。

T

問題はそこです。

S

どこです?

T

外に出ることなく、ずっと自室に引きこもっていれば、親は心配する。親の注目をいっしんに集めることができる。まるで腫れ物に触るように丁重に扱ってくれる。他方、家から一歩でも外に出てしまうと、誰からも注目されない。その他大勢になってします。見知らぬ人々に囲まれ、凡庸なるわたし、あるいは他者より見劣りした私になってしまう。そして誰も私を大切に扱ってくれなくなる。これなど、引きこもりの人によくある話です。

S

じゃぁ、先生の理屈に従うなら、私の友人なら目的を成熟しており、今の状態に満足している、となるのですか?

T

不満はあるでしょうし、幸福というわけではないでしょう。しかし、彼は目的にそった行動に出ているのは間違いありません。彼に限った話ではなく、我々は皆、何かしらの「目的」に沿って生きている。それが目的論です。

S

いやいや、到底納得できませんね。

02/19【なぜ「人は変われる」なのか?】【トラウマは、存在しない】